昔から言われてきたことです。
今まで私は、外来診療、介護施設で、多くの高齢者や認知症の方々と接していくうちに、疑問が浮かんできました。
もちろんその逆の方も当然いらっしゃいます。
もちろん残っている歯の本数が多いほうが、かみ砕けるので、消化には良いとは思います。
ただ、歯が一本もなくても何でも食べることができ、生き生きと生活されている方も大勢いらっしゃいます。
『表情筋』ここに答えを見出しました。
『表情筋』と聞くと、美容のことがすぐに浮かぶかもしれませんが、美容以外にも大切な秘密があるのです。
ガムを噛んだりして咀嚼筋(噛む筋肉)に刺激を与えても、ほとんど脳に刺激は届かないのですが、表情筋(表情を作る筋肉)に適切に刺激を与えると、脳に刺激が届き脳の血流量が上がることが科学的に証明されています。
このことが何を意味しているかというと、噛むことで咀嚼筋を鍛えるよりも表情筋を鍛えるほうが脳に刺激が与えられ、より重要なのではないかということです。
また、表情筋に正しく負荷をかけてトレーニングすることで、
などの様々な効果が認められています。
では『表情筋を正しく鍛える』とはどういうことでしょうか。
先ずは、表情筋とはどこにあるのかを考えましょう。
表情筋は、顔の表面から考えると、皮膚→厚い脂肪→表情筋といったように深い位置にあります。
ただ、口の中から考えると、薄い粘膜→表情筋といったように浅い位置にあります。
表情筋のなかでも、瞬間的に表情をつくる速筋を鍛えるよりも、鍛えるべきは肌のハリを保っている遅筋なのです。ゆっくりと、ジワーっと、持続的な負荷をかけて鍛える必要があるのです。
また、表情筋は、直接的・間接的にクチビルの周りの筋肉(口をむすぶ筋肉)に集まっているのです。
このことから、エステでお顔をマッサージしたり、コロコロとローラーでマッサージして遠い所から負荷をかけるよりも、クチビルの裏側からじっくりと負荷をかけたほうが効果的なことがわかっていただけると思います。
医院ではそれをクチトレーニング、略してクチトレと呼んでいます。
クチトレ専用器具を、クチビルと歯との間に装着して、「ンっ〜」と結ぶのです。
それにより、上下のクチビルの内側にしっかりとした負荷が持続的にかかり、クチビルの周りの筋肉(口輪筋)およびそこに集まっている表情筋も鍛えることができるのです。
方法は、簡単です。
クチトレ専用器具をくわえ、一回三分、一日三回しっかりと「ンっ〜」と口をむすぶだけです。
表情筋という筋肉を鍛えるわけですから、最低限の負荷を与えなければ、表情筋は反応してくれません。この最低限の負荷が、一回三分、一日三回なのです。
くわえることに慣れて、一日六回くらいできれば、表情筋も喜んで反応してくれます。そうなれば、皆さんも素敵な笑顔を手に入れられるでしょう。
また、くわえるだけですので、テレビを見ながら、本を読みながら、お風呂に入りながら、家事をしながら・・などいつでも簡単にできます。
では、前述の1〜5とはどのような関わりがあるのでしょうか
もっと言うとこれらの筋肉は、もともと内臓の筋肉から発達したものなのです。表情筋と内臓筋は同じ種類の筋肉なのです。
そのため、支配神経も内臓筋同様、副交感神経(身体をリラックスさせる神経)です。
表情筋→咽頭収縮筋→内臓筋 という順番ではなく、ヒトの発生過程から考えて、内臓筋→咽頭収縮筋→口輪筋→口輪筋に集まっている他の表情筋 というように、内臓からグゎ〜っと分化してきたことをイメージして下さい。
よって、口輪筋を鍛えることによって、咽頭収縮筋も鍛えられ、なおかつ活性化した脳からの指令でスムーズな飲み込みができるようになってくるのです。
もっというと、舌骨という舌についている骨の位置も上がります。
舌が持ち上がる力がつくことによって、寝るときに上を向いていても、舌の奥のほうが気道に落ち込まないようになるので、イビキや無呼吸が改善するのです。
因みにイビキは、舌が気道をふさぎかけた時にその狭いところを空気が通る時に鳴る、いわば、ビル風のようなものなのです。また、舌が落ち込んで気道をふさぐと、空気が通らなくなります。これが睡眠時無呼吸症です。
また舌骨の位置が上がるということは、気道が広くなるということで、空気を通りやすくします。よって、口輪筋を鍛えることで、イビキや無呼吸が改善し、なおかつ、心身をリラックスさせる副交感神経が優位に働き、ぐっすりと良質な睡眠がとれるようになります。
イビキや無呼吸を繰り返していれば、当然、酸素不足になります。
酸素不足が続くと交感神経が緊張し始め、血管を収縮させるため、血圧は上がりやすくなります。
血管の収縮が続くと、血管が硬くなり、血液の粘稠度も高まるため動脈硬化が起こりやすくなります。交感神経が優位になると、身体は緊張状態になり、アドレナリンが過剰に分泌され、血糖値が上がりやすくなります。
このようなことを回避するためには、ストレスのない(イビキや無呼吸のない)良質な睡眠が必要になるのです。
そして、鼻から入ってくる外気に混ざっている埃やウイルスは鼻毛にキャッチされ、潤ったきれいな空気となって気道に入っていきます。これが、正しい鼻呼吸なのです。
その気道に入っていく手前ののどに免疫をつかさどる大切な部分があります。そこに乾いた汚れた空気があたることにより、アレルギーなどの炎症反応が引き起こされるのです。
また、お口がしっかり閉じられるようになると、鼻の穴を下に押し広げる筋肉も強くなるので、鼻の通りも良くなります。
お子さんの、「お口ぽかん」は鼻が悪いから口で呼吸しているのではなく、お口を閉じる筋肉がキチンと発達していないから鼻の穴が狭くつまりやすいのです。
正しく鼻呼吸ができるようになると、驚くほど、風邪やインフルエンザにかかりにくくなります。
目がパッチリ、リフトアップ、小顔、フェイスラインが整う、潤い肌などなど、魅力的なうれしい変化がおこり、いきいきとした表情になります。
それにより、脳の各部分が刺激され、脳内のネットワークが構築されるのではないかと考えられています。その結果、飲み込みに関しては、鍛えられた咽頭収縮筋と活性化された脳からの指令により、スムーズに飲み込めるようになります。
また、脳梗塞の後遺症でよだれが止まらない方の場合も、鍛えられた口輪筋と咽頭収縮筋と活性化された脳からの指令により、よだれが垂れなくなるのです。
認知症の方々の会話がスムーズになったり、冗談が言えるようになったり、いままでできなかったことが再びできるようになったり、自分の気持ちを伝えられるようになったりと、様々な変化がおこります。
嘘みたいなホントの話です。
人がおこなっている全ての行動(話したり、食べたり、歩いたり)は、それをおこなっている筋肉には意思はなく、脳からの指令だと思います。
よって、筋肉を鍛えるだけのトレーニングにはあまり魅力を感じません。
活性化された脳と、発達した筋肉(未発達な子供の場合)もしくは鍛えなおされた筋肉(衰えた大人の場合)が、協力して初めて、色々な機能が改善するものであると考えています。
そして、それを実現できる唯一の方法が、クチトレによる表情筋トレーニングであると実感しています。
今まで経験してきた多くの感動を、ご来院くださるすべての方々に届けたいと思っております。